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読んで良かった本、栄養になった本の記録です。

『知の体力』/永田和宏

以前にネットニュースで取り上げられているのは見たものの、他にも何かで取り上げられたのかな?私の街の図書館では現在14人待ちの一冊がこちら。

知の体力 (新潮新書)

知の体力 (新潮新書)

 

 

”自力で生きぬくための本物の「知」の鍛錬法”

 

これは、カバー裏に書かれてある言葉。ここ最近、そういったテーマを自分で追い求めているフシがあって、なんとなく探したり見つけたりして読んでいます。

『知の体力』の前に読んだこの本↓も大変興味深く、書けるなら書いておきたいけど、今日は『知の体力』について書きます。 

 

知性を磨く― 「スーパージェネラリスト」の時代 (光文社新書)

知性を磨く― 「スーパージェネラリスト」の時代 (光文社新書)

 

 

ものすごく大雑把にざっくり言うと、この2冊は大体同じことを仰っていて(知恵とは・知識とはどういうものか、またそれをどのように身につけ活用していける自分になるか)、でもそれぞれに視点やアプローチが異なっており(田坂氏はTHEビジネス!なシンクタンク代表&工学博士、永田氏は日本を代表する歌人&細胞生物学者。お二人とも大学で教鞭を執られており、たいへん学識がおありになる方)、両方とも大変面白かったのです。生きる上で大切な知性を学べる良書です。

 

『知の体力』について書きたいと思ったのは、新書で泣いたのは初めてだったから。書いてあることは新書らしい有益な内容ですが、1冊のストーリー(小説?)を読み終わったかのような感覚でした。多分、ご自身のお若い頃から現在までの道のりを辿りつつ、上手いこと(←偉そうにすみません)「知」に対しての見解や持論を体系的に書かれてあるからかなと思いました。(体系的にという点では田坂氏の本も同じ)

 ただ、涙が出た理由を含めてもう一歩考えると、『知の体力』は最後の最後で、「知」というものを考え論じ展開してきた最後の章で、亡くなられた奥様とのお話を織り交ぜつつ、「知」を得ることの根源的な意味というか、「何のために」の根っこ中の根っこを書いていらっしゃるような気がしたのです。(その根っこ中の根っこが、今の私に響きすぎて泣いてしまったのかもしれん)

奥様とのお話は非常に心打つものではありますが、それに涙するというよりも「これだけページを割いて色々語ってきたけどね、本当に一番大切なことはこういうことだと思うんだよ」ってその「流れ」と「根っこ」が…もうなんか涙‼だったんです。ボキャ貧甚だしい表現だな。泣いた私は特殊な例だと思うけど、本当に良い本だなって思ったんですよ。

”どんな大学に入学しても、どんな賞を獲得しても、どんな大会に優勝しても、どんな素晴らしい成功を収めても、心から喜んでくれる人がいなければなんの意味も持たないのとちょうど逆に、ほんのちょっとした自分の行為を心から褒めてくれる存在があるとき、自分がそれまでの自分とは違った輝きに包まれているのを感じることができる。” - p220

 何のために『知の体力』を養うのか?「大切な相手」のため?いや、そうじゃなくて(それだけじゃなくて)、その「ちょうど逆」にあるもの。本当の「知」を得て、相手の行為を心から褒められる”自分”になれたとしたら?

”そんなポジティブな「相槌」によって、次々に自分のアイディアが展開し、どんどん深く、あるいは高く伸びていくのを実感するとき、(中略)自分の能力というものが開かれていくのを実感するものだ。自分が全的に受け容れられていると感じることができるとき、人間はもう一歩先の自分に手が届くものである。” - p212

 

相手を開かせていけるようなポジティブな行為を本書では「正(=プラス)のフィードバック」と呼び、お互いに「正のフィードバック」をかけあえる相手といるべきだ(伴侶となるべき存在もそうであってほしい、とも)、そんな相手と出会ってほしい - と述べられています。

多分、そんな相手と出会ったり、一緒にいられるためには、まず自分が「知」を得て「正のフィードバック」をかけられるようになっていないとな、と。そんな自分になるための『知の体力』であり、最終章までのすべての章であったと読んだ後に思います。(単純に、各章に出てくる昨今の大学事情や先生エピソード、細胞生物学や短歌のお話も面白いのですが、全体を通してフィードバックをかけられているようでそれも楽しい)

 

友人・同僚・恋人・夫婦・親子 - どんな人間関係においても、相補的にお互いが開かれていける関係だったら、人生もっと楽しいだろうなと思います。そう思う自分だったら、多分相手も楽しいはずと楽観的な私は思うのですが、それは置いておいたとして、そんなお互いの関係性の中で相手と相対化して自分を発見していけることも、きっと楽しいことですよね。生きていくことは、そういうことであってほしい。